君が残してくれたもの
雨上がりの道を、水たまりを避けながらゆっくり歩く。


海晴くんが思い出したように言った。


「そういえば、最近、桜樹が花言葉にはまってて。花言葉の本とか読んでんの」


海晴くん、楽しそうに桜樹の話するなぁ。


「あ、そうなんだ。まだはまってるんだ」


思わず笑ってしまう。

桜樹の花への愛は半端ない。

バスケ部じゃなくて園芸部に入ったらよかったのに。


園芸部で、植物と戯れる桜樹を想像するとなんだか微笑ましかった。


「それで、俺も借りて読んだんだよ。そうしたら、いいことが一つ分かった」

海晴くんの嬉しそうな声。

いいこと?なんだろう…


「なにがわかったの?」


私が尋ねるのを待っていたかのように、話し始めた。


「なずなの名前。花言葉がさ、『あなたに私のすべてを捧げます』だったんだよ。親の愛を感じるよな。なずな、すごい、いい名前だね」


いい名前だね…

海晴くんのひと言に、私の心は温かくなる。


あなたに私のすべてを捧げます

そんな意味だったんだ。
知らなかった。知ろうともしてこなかった…


今までコンプレックスでしかなかった名前が途端に輝きだす。

父が、すべてを捧げてもいいと思ってくれた。そんな過去があったんだ。


「ありがと」


ちょっと涙目になる私は、顔をふせた。


10円ハゲができるほど、私と暮らしたいと思ってくれた父の気持ちが胸に突き刺さる。

でも、それは幸せな感覚だった。



それに、さっきのラバーズコンチェルトの歌詞にも同じ言葉があったのを思い出した。


親の愛も、恋も、諦めていたけど。

親の愛は、海晴くんが見つけてくれた。

私も、いつかラバーズコンチェルトの歌詞みたいなこと思えるような恋がしてみたい…なんて、柄にもなく乙女なこと思ってしまったのだった。

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