君が残してくれたもの
でも、目の前にあるステーキ肉の誘惑には勝てず。

「ここです」


マンションの前で立ち止まると、また久保川くんは頷いた。

エレベーターに乗りこむと、久保川くんは7階のボタンを押した。


閉まるドアを見ながら、密室になっていく空間に少し緊張する。


そういえば、久保川くんはどうして迷いもなく7階のボタンを押したのだろう。

私、言ったっけ?


久保川くんの後ろ姿を見ながら、胸がドクンと鳴って息を少し大きく吸い込んだ。


「いいね、マンション。高いとこ好きだからうらやましい」


振り返った久保川くんに、


「そう、なんだ。でも...久保川くんちは犬が飼えてうらやましいよ」


そう言うと、私の顔をじっと見てきた。


「な、なに?」

戸惑う私にぐっと近づいて、

「僕、犬飼ってること言ったっけ?」

真顔で私を覗き込む。


「え?言わなかった?ダックス2匹でしょ?」


確か、そう言ってたはず。


「ダックス2匹だけど。そんな話、僕今日してないよ」


エレベーターのせいか、グラッとめまいがした。


気づけばドアが開いていた。



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