君が残してくれたもの
サヨナラとまたね
それは突然だった。

「ねえ、この近くで事故があったらしいの」

「どこで?」

ソファに寝転がった体を素早く起こした。


「コンビニ行く途中の十字路があるじゃない。そこだって」

「すぐそこじゃない」

私は思わず険しい顔になる。


母は朝食を買いにコンビニへ行ってきたようで、テーブルの上にコンビニの袋に入ったパンやコーヒーが置いてある。

「それがね、高校生ぐらいの男の子だって言うのよ。なずな、知り合いとかじゃないよね?」

近所に住む高校生なんてゴロゴロいる。

でも、胸騒ぎがした。

「連絡とかべつにきてないけど。ママは何も見なかったの?」

何か手掛かりになるものを、と気が焦る。


「わからないけど…ただね、自転車が道路わきに置いてあったの」

「どんな?」

母はしばらく考えて、

「高校生が乗ってそうにない、ママチャリみたいな。だから関係ない…」

母の言葉を最後まで聞き終える前に私は玄関を飛び出していた。

心あたりがあった。

誰かからのおさがりだと言って、ぎこちなく乗っていた後ろ姿。
自転車漕ぐの下手だから。

心配だねって樹里と話してた。


「桜樹…」

どうか無事でいて。

願いながら十字路へ向かった。


あの笑顔が消えてしまったら、あの声が聴けなくなってしまったら。
私…

走って息が上がって、苦しいけど足を止めるわけにいかない。

十字路には救急車が止まっていた。

私は人だかりをかき分けて、前に進んだ。


担架に乗っていたのは、

「桜樹?」

血の気が引いた。
桜樹が目を閉じて担架に横たわっている。

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