君が残してくれたもの
「なずなちゃんも、居るから。桜樹、わかるか?」

海晴くんの声に、桜樹は頷いて、


「すごい騒ぎになっちゃってる」

周りを見渡して、のんきそうな声を出す。


私は、ほっとして思わず座り込む。


「桜樹?」

座り込んだまま声をかけると、

「なずな?ごめん心配かけて。全然、大丈夫」

そう言って、座ろうとしたけど、


「頭打ってるみたいだから、動かさないで」

そう言われて、救急車のなかへ運び込まれていった。


私と、海晴くんが救急車に乗り、付き添うことにした。

「車が来た!って思って、目覚ましたらこんなことになっててびっくりだよ」

本人はのんきそうに笑ってるけど、私と海晴くんは気が気じゃない。


「自転車、危ないって言ったじゃん。もう…ほんとに心配したんだよ」

喋ってる途中で涙声になった私の背中にそっと海晴くんが手を置いた。


「うん、ごめん。ごめんね」

桜樹は、何度も繰り返し謝ってた。


「桜樹、履歴が俺しかないって、どういう…」

海晴くんが言いかけると、桜樹はそっと瞳を閉じて眠ってしまった。

病院に着いて、桜樹が処置してもらっている間、私と海晴くんはただ、沈黙の中座っていた。

体の震えが止まらなくて、自分の腕をぎゅっと掴んだ。

強く強くつかんだ指は、腕に爪を立ててしまっていたけれどそんなことにさえ気づかないでいた。

手に何かが触れて、視線を落とすと…

相変わらず黙ったままだけど、海晴くんは私の手を握り、腕からそっと離した。

握られた手は冷たくて、海晴くんの緊張、不安が伝わった。

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