君が残してくれたもの
走る私の視界の隅、傘をさして歩く笹中さんがいた。

私は足を止めて、笹中さんを呼んだ。

呼んだのが私だと気づくと、傘を持って私の方へ駆けてきた。


「ちょっと、ずぶ濡れだけど大丈夫?」


驚いた顔を見ながら、息が上がってなかなか話せない。


息が落ち着いて、改めて話し始めた。


「思い出したの。名前」


「え…」

私の言葉に、表情が一気にかわる。

緊張、嬉しさ、不安。

私は、笹中さんの目を見て、ゆっくり口を開いた。


「月丘桜樹だよ」

笹中さんの顔が、みるみるうちに緊張が解けて、涙がこぼれた。
< 169 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop