君が残してくれたもの
久保川くんを連れてくるのはもちろん初めて。

じゃあ、いつ久保川くんがうちに来てる?

まさか母さんが?

いや、さすがにない。


「どうしたの?」


久保川くんが私の顔をきょとんとした顔で見ている。


口元にソースがついているのを見て、少し気が抜けた。


「もう、ソース。ついてるから」


自分の行動に自分で、驚いた。

目をまん丸にした久保川くんとしばらく無言で見つめあってしまった。


当たり前のように、自然な流れで私は自分の指で久保川くんの口元のソースを拭っていたのだ。


頭に片隅で、何かが蘇りそうになったのを黒いもやが隠していく。


ソースを拭った手は行き場を失くして、そのまま無言のままで席に着いた。

私は、久保川くんに打ち明けようと心に決め、口を開いた。


「あのさ...うちのクラスの一番後ろの端の席なんだけど。はっきり思い出せないんだけど、誰かの席だったと思うんだよね?最近まで、誰かがあの席に座っていたと思うの」


馬鹿げた話だから。

誰にでも話せるわけじゃないし。でも、今日1日久保川くんを見ていて、たいがい彼も謎だらけだと感じた。

そんな謎だらけの彼にならこの馬鹿げた話も話せるような気がした。

< 18 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop