君が残してくれたもの
外で働く母と、母に専業主婦を望んだ父との間には、いつしか大きな溝ができてしまったそうだ。

私としては母がバリバリ仕事していることには感謝も尊敬もしている。

「一緒にいられなくなるとわかっていたら、好きにならなかった…?」


母にそう尋ねてみたことがあったな、そういえば。

でもあの時、母がなんと答えたのかは忘れてしまった…

人はどうしてこんな風に、忘れてしまうのだろう。

大切にしようと思った言葉も、いつの間にか忘れていたり…


「まぁた、ぼんやりして。大丈夫?」

怪訝な顔の樹里が箸を止めて私を見る。

そんな樹里の顔を見て、今度は笑い出した私に、ますます険しい顔になる。

「樹里、眉間のしわっ」

そう言って樹里の眉間に触れた時、脳裏に何かがよぎった。

...私は何を忘れてる?
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