君が残してくれたもの
「ただいま、あれ…?」

珍しく早く帰ってきた母が固まっている。


「あ、おかえり。早かったね」

私がそう言うと、


「お邪魔してます」

立ち上がって律儀に頭を下げる海晴くんを見て、母の顔はパァっと明るくなるのがわかった。


小走りで近づく母の足音がパタパタと響いて、

「やだぁ。イケメン君連れ込んで、焼肉?やるわね、さすが私の娘」

母は喜んだ。

このこのぉってな具合に、肘を私の肩にグリグリ押し当ててくる母に私はため息。



そんな母の様子をニコニコしながら見ていた海晴くんは、

「なずなちゃんのお母さん、美人っすね」

なんて言って母を喜ばせた。

母を虜にして、どうする気よ、久保川海晴…


「どうせ似てませんよ」

私が小声出つぶやくと、


「なずなちゃん、お母さんに似てるよ?」


海晴くんの言葉に、


「お気遣いなく」

そっけなく返す。

そんな気を遣われると逆にやり辛いわ。


「なずなちゃんは色素薄いから、優しい印象だけど。涼し気な雰囲気は、似てる」


そう言って、海晴くんは優しく笑った。


煙で目が痛い。

顔が熱い。


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