君が残してくれたもの
私の話があまりにもぶっ飛んだ話だったからか、樹里は『はあ』とか『うん』とか、ため息のような独り言のような声を出していた。


そんな樹里を見て、

「信じてない?」

覗き込むと、


「いや、信じるよ?だって…まったく夢見ない現実しかないようななずなにそんな妄想癖があるとは思えないもん」

あっけらかんと、答えた。

そんな樹里を見て、なんだか笑えたけど、ああ、やっぱいい奴だって心から思えた。


樹里の飾らない言葉が私をこうやって時々、助けてくれる。


樹里に打ち明けることができたら、なんだかすごく心が軽くなってきた。


樹里はしばらく考え込んでいたけど、パッと私の顔を見た。

「ねぇ。でも、奇妙だよね。みんなの記憶を消すとか…そんなことできないじゃない?」


少し険しい表情で言った。

私まで、ゾクッとなった。


「そうなんだよね…奇妙なんだよ」


そう、そこなのだ。

人の記憶を一斉に操るなんて、考えられないことだ。

私と樹里の中に、しばらく沈黙が流れる。


不思議というより、怖い。

そんな感情が私の中に広がってくる。

鳥肌が立ってきた。


樹里は、そんな私の肩をポンと叩くと、

「ま、それも気になるけど」


肩に手を置いたまま…


「記憶のない間、久保川と一体何があったのか、それも気になる」


冗談かと思いきや、真顔で言ってのけた。

こんな時に、それ?

なんか気抜けるわぁ…


「ね、何があったのかなぁ。もしかして付き合ってたりして!」


思いっきり楽しんでるな…

樹里は、身を乗り出して話を聞いてくる。


そんな樹里を見て、はぁっと長いため息をついた。


「ないでしょ、何も」


ないない、と首を振りながら、笑った。

私の言葉に、いやいやと首を振って、

「いや、わかんないよ?記憶はなくとも、お互いに惹かれた相手なら、また惹かれあうことあるかもよ?」


樹里は一人ワクワクしてるけど、私は恋はしないから。


「恋とか…無理だって」

視線を膝に移したら、小さいころの傷跡が目に飛び込んだ。


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