君が残してくれたもの
私が公園の木から落ちたときの傷。

木の枝が引っかかってみるみる血だらけになってしまった。怖くて痛くて、泣く私の元に母が慌てて駆けて来て。


青ざめている母の元に父が走ってきた。

父は素早く私を抱きかかえて病院へ走った。

その父の大きな腕の中で、私は痛くて泣いていた。


父の心臓の音が、大きく鳴っているのを聞きながら、私は泣いた。

病院に着いて、5針縫って診察室から出てきた時、父は母の手を握っていた。

母は泣きすぎて目がパンパンに腫れていた。

2人は、パッと私のところに駆けてきて、私をぎゅっと抱きしめた。


少し強くて、痛かったけど、私はなんだか嬉しくてヘヘッと笑った。

もう泣き止んだ私のことを、母はまた泣きながら抱きしめた。


そんな母の背中を、父は優しくさすっていた。

愛されている、居心地のいい安心感に包まれた記憶。


それが、いつしか2人は顔を合わせればお互いにいがみ合い、言い合っていた頃はまだよかったのかもしれない。

そのうち、思いをぶつけても投げたままにされたボールみたいに置き去りにされて。

通わなくなった心はどんどん冷めて…色褪せていったキラキラした時間。


あんなに色鮮やかだった世界が、色のない世界へと変わっていった。


どうせ終わるなら、最初からしない。

恋なんて、しない。
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