君が残してくれたもの
信じてるのに裏切られたら傷つくでしょ。

好きって感情をぶつけるのって、自分の一番弱い部分をさらけ出してるようなもんでしょ。

その部分を傷つけられたら…私、自分がどうなるか想像するのもちょっと怖い。


「なずな?短距離走出る人、招集かかってるよ」


樹里の声で我に返った。


「大丈夫?」

樹里が私の背中に手を置いた。


「うん、大丈夫」

そう答えると入場門へと急いだ。


「なずな、こっち」


同じクラスの星菜ちゃんが手を振っている。


「ありがと」

星菜ちゃんの後ろに並ぶと、

「優勝したら、ムートンがアイスおごってくれるらしいよ」

無邪気に笑って星菜ちゃんが教えてくれた。


ムートンとはクラス担任で、冬になるとムートンブーツを履いてくる35歳独身の男の先生だ。

今の季節はサンダルで、ある日いきなりムートンブーツに変わる極端な謎多き担任だ。


「アイスかかってるから、みんな盛り上がってんのよ」

どおりで、なんだか去年よりテントの中が騒がしいと思った。
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