君が残してくれたもの
麗香が走り去ったのを見て、樹里が海晴くんのもとへ走った。


樹里は自分の言動が原因なんじゃないかと、気が気じゃない感じで居ても立っても居られなかったのだろう。


私はどうすればいいのかわからず、ただテントの中でそわそわしていた。


「さっきの見た?麗香、何したんだろう」

「久保川くん、怒ってたよね?」

「あの二人なんかあるの?」


女子たちの会話は矢継ぎ早に飛び交う。

私も女子だけど、女子ってひとくくりにされて申し訳ないなってぐらい、この会話の速さについていけない…


3年生のフォークダンスが始まったころ、樹里が戻ってきた。


私は思わず立ち上がって、

「大丈夫だった…?」

質問したけど、樹里はすぐには答えなかった。

ただ、樹里の眉間のシワが深い。

テントから出て、人のいないところで樹里は話し始めた。


「久保川、さっき麗香になずなに謝れって言ったらしいんだけど。麗香は逆切れしてきたらしくて」


それで、さっきの剣幕。

海晴くん、すごい真っ直ぐな人なんだ。ああいうの、許せないんだよね。きっと。


「麗香は、なずなが邪魔したんだ。わざと自分の前で立ち止まったからぶつかったって」


「ん?そうなの?」

私は首を傾げたまま考える。

私が、木内麗香の前で急ブレーキをかけ、玉突き…


「えっ。動機は?」


鋭い視線を樹里に向けて、サスペンスの刑事になりきったところで、誰かがふき出した。


振り返ると、海晴くんが笑ってた。

さっきの顔とは全然違う顔。並びのいい歯が見えて、頬っぺたのえくぼがちょっとかわいい。

さっきは少し不安になったけど、この顔見たらなんかホッとして、緊張が解けた。


「あんた、動機って…」

樹里はあきれ顔。


「だって…ゴールした木内さんの前にわざと出て来て立ち止まるって、一体動機は何だったのかなって思って」


真面目に説明すればするほど、樹里と海晴くんは大笑い。


「当の本人がこんなだから。もう、気抜ける」


樹里は、なみだを流して笑ってる。


「なずなちゃん、いいね。ほんと。楽しい」


やだ、今のはちょっと嬉しいじゃん。なんて、浮足立つ私を漬物石で沈めて、


「もう、大丈夫。私、もう立ち直った。全校の前ですっ転んで、ちょっとへこんだけど。海晴くん、私、中丸の骨付きカルビで大丈夫!」

深く頷くと、

「え?そこ僕なの?」

驚いた顔をする海晴くんを見て樹里と二人笑った。
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