君が残してくれたもの
樹里の表情に観念した私は、口を開いた。

「そりゃね、海晴くんの大きな手とか腕?特に肘から下の手の甲にかけてのあの筋肉のつき方?もう、理想的で、あんな腕で抱きしめられたい!とかね。そういう下心は相変わらず持ち合わせてるわけ…でも、」

変質者をみるような目で私を見ないで。


「でも、恋はしない?」


樹里がため息交じりに私の言葉を先取りしてきた。


そんなため息つかないでよ…

だってね、樹里。


「恋はいつか終わるから」


人の気持ちほど危ういものはない。

期待させておいて簡単に裏切るじゃない。

好きだと言った口で、傷つけるような言葉を吐くでしょ。

だから、恋はしない。

「私にはそんな機能備わってないの」

なぜか自信満々に、樹里に向かって言った瞬間。


「あのね、それ恋だから。もうね、落ちてんの!恋に!」

樹里はお弁当箱を通り過ぎて私の肩を掴んだ。


肩を捕らえられた、あまりの早さに私は目が点になったまま固まる私は、樹里の顔で視界がいっぱいになっている。

「あのね、恋は下に心があるの。下心なの、恋は」

頭の中で恋という字を書くと、あら、ほんと。

下に心がある。


「だから、それは恋だから。もうね、始まってんのよ。恋は本人の了承も得ずに勝手に始まっちゃうもんなの!」

樹里の顔が本当に険しく、私は樹里の勢いに押されて危うく椅子から落ちかけた。
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