君が残してくれたもの
「思い出さなきゃいいって、思ったんだ」

そう言った海晴くんの苦しそうな顔が、わけもわからず私の心も苦しくさせた。


「どういうこと…?」


どういう意味なのかがわからず、戸惑う私に、


「桜樹のことを思い出さなかったら…このまま、なずなが俺のことを見ていてくれるんじゃないかって思ったんだよ」

消え入りそうな声で、海晴くんは見たこともないくらい悲しい顔をしていた。


いつも、どこか無邪気な部分を持っていて、真っ直ぐで、明るくて…


そんな海晴くんにこんな顔をさせてしまった…

私はこれ以上…海晴くんを責められなかった。

海晴くんは、

「でも、できなかった。桜樹との時間はなずなにとっても、俺にとっても大事な時間だったから。消し去るなんてできるわけない…」

そう言った後、私の前から走り去ってしまった。

海晴くんの見慣れた背中が、悲しくて切なくて、涙で視界が揺れた。


「海晴くん」

もっと大きな声を出したかったのに、ほとんど声にならなかった。

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