風は戦い、恋をする
アミダがいなくなったとたん、翠はすっかり力が抜けてしまった。
神仏化も解けて、座り込んでいると
自分は独りになったことを思い出した
気づけば翠の目には涙が溜まっていたーー
「ちちうえっ… みんなっ… ううっ」
そうか、私は一人になったんだーーーー
その様子を見ていた牛頭と馬頭がひそひそする
「生き残ったのは独りのようでやんすなあ……」 「これから独りで里を立て直すであんすなあ……」
そんな痛々しい様子に
エンマはとんでもないコトを口にする
「よし、こいつはわしの屋敷に連れていく!!!」
泣いている翠をガッと持ち上げ高らかに言いはなったーーー
「エンマ様はロリコンでやんすかっ?!」 「エンマ様、もしや地上界で流行った光源氏みたく自分好みに育てていくであんすかっ?!」
牛頭と馬頭がアワアワする
「うん、うん、
将来はこの子は美人になる!!
……
って
ちがわーーーーい!!!!!!!
身寄りのないこやつをほっとけないじゃろーが、ボケっ!!!
てか、
お前らいるとややっこいから先帰れやっ!!」
「「え、でも……」」
牛頭と馬頭がそわそわする
サッと翠をお姫様抱っこに持ち変える。
「いいからさっさと帰りぃやっ!
……すぐに帰るわ」
それを聞くと牛頭と馬頭がスッとその場から消えたーー
翠はなんだか現状が良くわからなくて
エンマに抱き抱えられながらもどこか他人事のように聞いていた。
翠は燃え行く里の様子をぼんやり眺めていた
しばらくすると
エンマはぼーっとしている様子の翠に話しかけた
「さっきの
あやつらは牛頭と馬頭じゃ
うるさくてすまんのー。
お主、名前は?」
「翠(ミドリ)……です」
「翠かっ!よい名前じゃの!
わしはさっきも言ったが地獄のエンマ大王じゃ!
真名(まな)はエンラじゃ!
」
驚いたっ
エンマ様の真名を聞けるなんて……
子供だって知ってる、親しい相手にしか真名は教えない
下手な相手に知られれば、呪いをかけられる可能性もある。
「真名、良いんですか?」
思わず尋ねた
「ああ!
これから家族のようなもんじゃからなっ 当然じゃ!
さっきの話し聞こえてたじゃろ?お主はわしの城で暮らすのじゃ!
わしの真名は貴重じゃぞー、うっかり呼ぶでないぞっ
それから、真面目な話じゃ
翠よ……
……
これから風神達を火葬するが……よいか?
」
確かに皆の遺体をこのままにはしておけないっ
私はコクンとうなずいた
私をおろすと
エンマ様は笏を取りだし唱えたー
「 大火葬(だいかそう) 」
笏を一振りすると炎が現れる
みるみる風神達は炎に包まれる
エンマ様は
燃え行く様子を最後まで見届けさせてくれた
途中から泣き出した私の頭をずっと撫でていてくれた
火が消えた時にはもう夜明けであった
「 翠……
本当にお主は頑張ったのお……
頑張ったお主には城に戻ったら、いっぱいご褒美をやるからのぉ
地獄のエンマのきびだんはどうじゃ!食べた相手を3日間パシりにできるぞ!
いや……これはあかんっ
じゃあ、赤鬼の高級パンツっ
いや……こんなもんいらんっ
……とにかく!なんでもあるぞっ!!
そろそろ……帰るかのっ! 」
そう言って
エンマ様はニカッと笑った
私も思わず、笑った
するとたちまち、
天上界も太陽が顔を出し、日の光が差し込めた
あの日の朝の光と
あの日の彼の笑顔を私はずっと忘れられないーーー
私はあの日からエンマ様に
多大なる敬意と感謝と……
恋をしているーーーーーーーー