イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
直倫と松野は同じカノーロの社員だ。
松野が直倫に思いを寄せているのは、あの時に知った。
そしてふたりは同じ部署で――おそらく直倫は彼女の上司になっている。
ふたりでここに来たのは、松野の父親に会うためらしい。
(父親……なんで?)
だがいくら考えても、答えは見つからない。
当然だ。知らないことが多すぎるのだ。
だからなにを考えても、憶測にしかならず、この状況ではネガティブな想像しかできない。
もしかして、直倫はあの子と特別に親しいのかと――。
(……直倫が私を裏切ってるはずがないのに……)
クラクラとめまいがしてくる。
「ね、今のふたり、かなりの美男美女だったわね~」
「うんうん、お似合いだった。彼女のほうがすごい彼氏のこと好きって感じだったけど」
遠子の背中側にいた、中年の客の女性二人連れが、ひそひそとささやきあう声が聞こえる。
(やめて……そんなこと言うの、やめてよ)
じっとしていると、冷汗が出てきた。
百貨店の中のクーラーはよく効いていて、一気に体が冷たくなっていく。
「やっぱり美男は美女とくっつくのよね~」
「ブスはおよびじゃないのよ~アハハ!」
(やめて……っ!)
自分のことを言われているわけでもないのに、遠子はソファーから立ち上がり、足早にエスカレーターへと向かっていた。
逃げるように立ち去る遠子の顔色は真っ青だった。