イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
「なんになさいますか?」
とりあえず、遠子は営業用の笑顔を浮かべたのだが、松野の口からかえったきたのは、注文ではなかった。
「――直倫さんのこと、あきらめてください」
大きな目がまっすぐに遠子を見据えている。
(あきらめろって、なに……?)
「どういう……ことですか」
遠子はぎゅっとこぶしを握り、松野を見下ろした。
「――私、松野麻衣って言います。直倫さんのこと好きです。ただの幼馴染ってだけで、あなたが直倫さんと結婚するなんて許せない」
「麻衣さん……」
遠子は挑戦的な麻衣の発言に、一瞬押されて、息をのむ。
「直倫さんは私がいくら迫っても、本気にしてくれないし……興信所に調べさせて、あなたのこと怪しいと思って追及しても、さらっと流すし……」
(興信所……?)
いきなり出てきた単語に、正直言ってかなり恐怖を覚えたが、だが同時に、彼女のその発言で、時折遠子を苦しめていた原因が分かったような気がした。
(直倫に電話をしていたのは、やっぱり麻衣さん……? だから、私のことをただの幼馴染だと言い張って、関係ないと、守ろうとしてくれていた……?)