イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
【番外編】ラブコンプレックス・Ⅱ
(たぶん俺は、世界一空っぽな男だな)
白臣はそんなことを思いながら、ウイスキーの入ったグラスを傾ける。
「おいおい、せっかくのマッカランを、そんなまずそうな顔して飲まないでくれる?」
隣のカウンターに座っていた山邑始が、苦笑しながら顔を覗き込んできた。
ここは都内にある芸能人や政財界の人間が多く出入りする会員制バーだ。
ひとりでゆっくり飲めるバーを探していた白臣は、始の紹介で、このバーに出入りするようになったのだ。
今日はたまたま始も来ていて、気が付けばごく自然にカウンターに並んで座っていた。
「――始さん、ちゃんとわかってますよ、これが貴重なモルトウイスキーだってこと」
「ほんとに~?」
始は美しいふたえ瞼を細めて、わざとらしく白臣の顔を覗き込んできたが、いくら大変な美貌の持ち主であっても、男に顔を近づけられて嬉しくなるはずもない。
「それ以上近づかないでくださいね」
と、わざとらしく無下に肩を押し返した。
「はいはい。今日はそういう気分なんだね」
始はふっと笑って、そのままグラスを持ってカウンターを離れてしまった。
(そういう気分か……。本当に、勘が鋭くて困る)