イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
翌日、和美の運転する車に乗って、六本木にあるKUGAYAMA本店に向かうと、店長の坂田含め、顔なじみの美容師たちが笑顔で迎えてくれた。
「遠子ちゃん、お久しぶりねえ」
「はい、坂田さんもお変わりなく」
遠子は礼儀正しく坂田に頭を下げる。
VIPルームは当然完全個室で、すでにカットの準備が整えられていた。
坂田は四十代の本店の店長である。
ゲイであることを隠していない。
そして腕はピカイチで、メディアの露出も多く、数多くの芸能人を顧客として抱えていた。
「あらっ、社長が切るんです?」
「遠子の髪を一番知っているのは僕だしね」
「んまーっ、貴重ね。見ていたいけど予約が入っているの。残念だわ~」
「パパ、もう切ってないの?」
「そうだねぇ……絶対に断れないお客様が三十人ほどいるから、鋏を持つのはその時だけかな」
それは今となっては文化勲章をもらえるような女優だったり、まだ名もない一美容師だったころにお世話になった実業家だったりと、多岐にわたる。父の歴史ともいえる人脈なのだ。
「代わりにアシスタントに見せてあげてくださいな」
坂田は名残惜しそうにVIPルームを出て行く。そして入れ替わりでアシスタントらしい男女の若者が、ふたり緊張した様子で入ってきた。