イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
「さっきまでいたんだけどね。急な案件らしくって……。まぁ、仕方ない。パパはお茶を淹れて持っていくから、リビングで待ってなさい」
「はーい……」
遠子はうなずいてリビングへと向かった。
久我山家のリビングは、庭の季節の花がいつでも楽しめるよう窓が大きく、さらに吹き抜けで開放感もあり、家族や来客とゆっくり過ごせるようかなり広い間取りになっている。
左手には窓、右手には二階へと続く階段、そして中央にソファーセットがふたつ並べられ、その奥にはグランドピアノがある。
そのグランドピアノの前に、男がひとり座ってピアノを弾いていた。
(ん……?)
メンデルスゾーンのロンドカプリチオーソだ。
後半のパッセージも軽やかに、難なく弾きこなしている。
客が来ていると父は言っただろうか。
KUGAYAMAグループは東証一部上場もしており、美容業界ではそれなりに名がある。客の出入りも当然多い。
遠子は久我山のひとり娘として一応挨拶くらいしなければと足を止めた。
そこでふと、ピアノの主が顔を上げて遠子をまっすぐに見つめる。