イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
直倫のことを好きになったというわけではない。
やっぱり苦手だし、言われたことも忘れたわけではない。
貸し借り云々は引っ掛かったけれど、一緒に住むんだと言われて、嫌だとは思わなかった。
本気で嫌なら、断っている。
この気持ちの変化に、遠子はまだ答えを出せていない。
(もちろん結婚なんて考えられないけど! けど……)
その後、夕食を食べていけ、泊まっていけという両親の誘いを「とりあえず実家に寄るので」とやんわりと断り、直倫は帰ることになった。
玄関まで見送りにきた遠子に、直倫はどこか楽しそうに笑う。
「――なんだか大人しいな。どうした」
「それはその……私もいろいろ、考えることはあったから」
そこで遠子は顔を上げ、靴を履いた直倫にビシッと指を突きつける。
「逃げないから」
「は?」
「だから、逃げずに考えるの。とりあえず、結婚なんて全然考えられないって目を背けるのはやめて、ちゃんと考えるからね! だから、ちゃんと考えても考えが変わらなかったら、直倫も考え直してよねっ!」
直倫は幼馴染で、家族ぐるみでも付き合いがある。
だからなんでも知っていると思っていたが、逆になんでも知っていると思い込んでいるからこそおちいる“逃げ”があったように思う。
(わからないなら、逃げない、問題と向き合う、ちゃんと直倫とのことを考える)
それが遠子がいきついた、今回の結婚に対するひとつの考えだった。