イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~

「久しぶりにこの家のピアノ弾いたな」
「あっ……!」


その聞き覚えのある声に、遠子は手に持っていた荷物を全部足元に落としてしまった。


「よう、久しぶり」


男はすっと椅子から立ち上がると、硬直して立ち尽くす遠子の前までゆっくりと歩み寄ってくる。

百八十を超える長身で、白いU首のカットソーにジャケットを羽織り、デニムを合わせるシンプルな装いだが、顔が小さくスタイルが抜群にいいのでモデルのように見える。

緩い黒髪のくせっ毛と、少し吊り上がった切れ長の二重まぶた、そして通った鼻筋にふっくらとした唇は、どこからどう見ても完璧な美男子だ。

だがその中身は、とても完璧とはいいがたい。
遠子にとって彼は悪魔そのものだった。


「なっ、なっ、なにしに来たっ、槇直倫(まきなおみち)!」


遠子はアワアワしながら後ずさる。

彼こそ遠子の幼馴染で、男性コンプレックスの元凶。

名前を槇直倫といい、年はひとつ上の二十九歳。銀座に本店を構える、日本の靴・バッグを代表するメーカー「canoro(カノーロ)」の直系の御曹司である。


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