DEAR. -親愛なる君へ-
だけどそれが正しい選択だと判断した。
博士が逃げろと言ったのだから。
その日、博士が研究室に帰ってきたのは、日が暮れてすでに真っ暗になった夜のことだった。
帰りが遅いなと思った。
ただそれだけ思っていた。
博士のその後のことなど、気にしていなかった。
しかし、帰ってきた時の博士は、あちこち傷だらけで、目元なんてただでさえ寝不足でクマができているのに、殴られたのだろう……内出血でまるで何かの動物のようだった。
痛々しい傷。
老体が負うにはあまりにも……重い傷だった。
僕の中の宝石を守るために、そんなになって。
そんなに大事なら、博士にあげたらよかったな。
……今だから、そう思うのだけれど。
『ディア……』
ああ。
『無事でいて……よかった……』
そう言って博士は笑ったんだ。
つうう……と、光るしずくが博士の頬を伝った。
泣きながら笑うなんて、どうかしている。
当時の僕は、そう思った。