僕は彼女に恋をした
「授業始めますよー。席についてくださーい」

ガラガラガラッと教室の扉が開いて、先生が入ってくる。

教科担任は、担任。

「じゃあ、また後で!」

咲希はひらっと手を振って席につく。

数学かぁ……。

あんまり得意じゃないんだけど……。

文系の方が得意な私にとって、理数は敵。

現代文だったら喜んでやるんだけど。

「っと、今日は数学じゃなくてHRをやります」

……え?

一瞬静かになり、教室がざわめく。

「はいはい、皆さん静かにしてください。」

手を叩いて注目を集めると、先生は口を開く。

「先に入ってもらったそうがいいかな……。神崎さん、入って」

ガラガラッとドアが開き、一人の女の子が入ってくる。

……トクン。

一瞬私の胸が小さく鳴った。

……?

なんだろう、今の。

「神崎さんは、つい先日まで入院していて、今日から学校に通えるようになりました。神崎さん、自己紹介してもらえますか?」

「神崎実佑(かんざきみゆ)です。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げる神崎さん。

サラサラの黒髪が顔の横を流れる。

体を起こして左側の髪を耳にかける。

……綺麗。

その一つ一つの動作すべてに、私は目を奪われた。

「和?どうしたの?」

前の席に座ってる子の声も耳に入らない。

……って。

「え?」

「いや、自己紹介しようか」

離れたとこから咲希も言う。

「え、え?」

「はい早く立つ!」

咲希の声に慌てて立ち、前を向く。

「自己紹介!」

あ、これやらなきゃいけない感じか。

「あ、えっと、三枝和です。えーっと……」

「趣味とか言うの!」

「趣味?趣味は……読書とか、映画鑑賞とか?あとカラオケ好きです」

よし!もういいね?!

「これからよろしくね」

とりあえず一言つけて座る。

「もう!ボーッとしないでよね!」

ぷくっとほっぺを膨らます咲希に、軽く片手をあげる。

だって……ねぇ?

神崎さんが綺麗すぎるっていうか……。

ぱっちりした二重の目は、黒目が大きくて吸い込まれそうで。

サラサラの黒髪は肩上あたりで切りそろえられてて。

真っ白の肌。

女の子らしく小柄な感じ。

触れたら壊れそうで。

私の心はすべて奪われた。

ただ一つ。

「……」

私に向けられた視線に気付かぬまま。
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