僕に、恋してみたら?
猫のイラストが描かれているスクエアの化粧ポーチのチャックをあけると、なにかメイク道具を取り出した。
あまりメイクのことは詳しくない。雑誌で流し読みしたことがある程度の浅い知識があるだけ。
まつげをなにかで挟まれ、それからなにかを塗られる。
「お姉ちゃん、それなに?」
「ビューラーでまつげをくるんと上にあげて、マスカラでボリュームアップ」
「へぇ」
横文字続きで既に呪文のようだ。
あ、でもCMで見たことあるかも。
「茉帆のは長いから……ビューラーだけでも目力アップするね」
「お姉ちゃんも、まつげ長いよね」
お姉ちゃんのまつげに改めて着目したのは初めてかもしれない。
すっと高い鼻に、切れ長の目はお父さん似。長い黒髪が似合う、正統派美人。
それに対してわたしは、低めの鼻に、ちょっとたれ目でお母さん似。
将来はお母さんみたいになるのだろうなと今から想像がつく。
本人は今でも20代と間違えらると自慢していることがあるが、つまりは超童顔だ。
そんなわたしが色気を出すことは一生できないような気がする。
それとも、この中途半端に伸びているミディアムボブヘアを、お姉ちゃんみたいに胸元まで伸ばせば、少しは大人びるだろうか。