僕に、恋してみたら?


「あなたは気が狂って、おかしくて、正気じゃないわ」


「でも、すばらしい人々ってのは実はみんなそうなの。秘密よ?」


「昨日になんて戻れないわ。だって昨日のわたしは、別人なんだもの」


アリスは、ちょっとわたしと似てる。

好奇心旺盛なところが。

でもわたしは、白ウサギをじっと観察することはできても――追いかけることはできないだろう。


ここで、先輩に会って。

恋をした。


先輩は、噂通り、名前を知らない女の子にキスしちゃうような人だった。

それでも先輩は、素敵な人だった。

わたしをドキドキさせる、天才で。

料理だって上手で。

気絶したわたしを、運んでくれて。

病院まで、会いに来てくれて。


会わずとも、思い出すだけで、胸がドキドキする。

苦しくもなる。


ここで、ギュっと抱きしめてもらった頃みたいには……もう戻れない。


お互いのこと、なにも知らなかった頃には戻れないんだ。


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