僕に、恋してみたら?



彼があたしに、なにもしてくれない。


付き合って3ヶ月くらいたった頃から、一緒にいるときにさりげなく近づいてみたり、手を握られたときに、ほんの少しいつもより強く握り返してみたり。


なんとなしに合図は出している。

それなのに、キスもしてこない。


「桃惟って、あたしのことホントに好きなのかな……?」


彼の兄である結惟と、ときどき、2人で会うようになった。

よき相談相手といったところだろうか。

もっとも、この男……結惟は、誠実な彼とは真逆で、生粋の女好きだ。

ことあることに「じゃあ、キスしよっか」なんて軽いノリで言ってくる。

だから結惟のことは、完全には信用していない。

それでも女心をよく理解していて、いつだってあたしを退屈させない。

ときにイジワルに。

ときに優しく。

結惟は、飴と鞭の使い分けが上手い。

そんな結惟に、魅力を感じずにはいられないのも事実。


「で? 俺に慰めて欲しくなった?」

そんなことを薄笑いしていう。

この顔。

ムカつくくらい……、カッコイイ。


桃惟と結惟は、性格こそ違えど、見た目は似ていた。

薄茶色の髪はサラサラで、桃惟よりちょっと長い。

ただ、話し方や仕草があまりにも違うので、兄弟といわれてもちょっと信じられない。


「あんたには慰めてもらいたくない」

「嘘だ」

「え?」

「寂しいって――顔に書いてある」


そういって、結惟が、あたしにキスをした。


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