僕に、恋してみたら?
「なにが?」
「エリカのこと」
「さぁ……誰かな。エリカなんて、珍しい名前でもないし」
「最低……! 絶対、茉帆には近づかないで」
「なんで菜帆に指図されなくちゃいけないわけ」
聞いたこともない、先輩の冷たい声。
「話しても無駄なようね。いいよ、あの子には、近づくなってもう一度よくあたしから――」
お姉ちゃんの声が途切れ、突如、辺りが静まり返る。
奇妙なくらい。
ただ、外から聞こえる雨音だけが、煩(うるさ)く廊下に響き渡っていた。
……嫌な予感がした。
〝顔をあげるな〟と、うしろから誰かに呼び止められた気がした。
でも――見てしまった。
水上先輩が、キスをしているところを。
もしかしたら、いつか、またこんな現場に遭遇するかもしれないという考えはうっすらとあった。
でもまさか、その相手が、実のお姉ちゃんになるなんてことは、思いもしなかった。