海の底に眠る祖国
「そもそも日本は、他国のように戦争で使える人材を育てていない。まさか、解散した自衛隊を使うつもりなのか?」
「自衛隊経験者なんて今じゃもう70代でしょうに」
テレビで、ラジオで、ネットで。
様々な声が交わされていた時、国民の前に立ったのは日本国の首相だった。
「日本人が参加することが重要なのです。他国は、日本だけが戦争に参加せずのうのうと暮らしているのが許せないのですから」
首相のその一言に、国民は怒った。
「日本人が参加したという事実を作るために、国民を死地へ送るのか!」
「死ぬと分かっていてあんたは人を戦争にやるのか!」
「どのみち、参加しなければ戦勝国に良いように使いたおされるだけです。少しでも、日本は言いなりになるつもりはない、という意思を見せなくては」
「あんたの勝手な考えに国民を付き合わせるのか!」
怒りの声を前に、首相は一瞬、険しい顔をした。
下を向く。
そして、決心したように宣言した。
「私の娘を送ります」
その、娘というのが志乃だった。