海の底に眠る祖国
その時は権藤志乃となっていたが、本名は金田志乃。
現日本の首相、金田総理大臣の妾の子。
その存在は知られておらず、養子として育てられていた。
不妊治療まで行い子供を作りたがっていた金田夫婦。
しかし、実は首相には愛人との間に子供がいた。
それだけでもスキャンダルだったのに、その子供が第7次世界大戦に生贄として出されるという。
それまで出生を知らず、突然戦地に送られることになった志乃。
世間の志乃への同情は大いに集まり、あらゆる励ましの言葉が届いた。
だからか、志乃はあの日、何のお咎めもなかった。
「かねだぁぁぁぁ!」
AKIRAの鉄雄ばりに殺意のこもった志乃の叫び。
太平洋の人工島で開催される大戦へ出発する日。
志乃は遠目に見えた遺伝子上での父親の元へ全力で走っていき、体重の乗った右ストレートを繰り出した。
首相は吹っ飛んだ。
ギャグ漫画のような吹っ飛び方だった。
受け止める者は誰もいなかった。
「フン」
鼻息ひとつ残して、志乃はそのまま歩き出した。
飛行機に乗り込むまで一度も振り返らなかった。
金田首相は地面に伸びたまま、青い空をただ見ていたという。
これが俗にいう「首相自業自得事件」の概要だ。