海の底に眠る祖国
「寄こせ」
低い声でそう言われた。
ようやく頭が回り、胸元のバッジを見る。
赤、白、藍の三色。
NEDの文字。
ネーデルラント、オランダだ。
つまり、目の前に立つこの男は、ルーク・アッセル19歳。
志乃の頭の中でカチリとピースがはまる。
同時に、同い年とは思えないその見た目に唖然とした。
白人種は成長が早いと聞いていたが、ここまでとは。
「早く」
「あ、はい」
無表情に促され志乃はあっさり従った。
長い物には巻かれるタイプだ。
どうせ程のいい使い捨てになるだろうが。
ルークは志乃の前にしゃがみ込み、ネオテーザー銃に弾を詰め始める。
「銃は使えるか?」
「無理です」
「バーチャルシューティングの経験は?」
「ないです」
「刃物の扱いは?」
「包丁で野菜を切るくらいなら」
じっと澄んだ瞳がこちらを見つめてくる。
彫りが深いその顔は何を考えているのか分からない。
分からないが、自分がお荷物認定されたことぐらいは分かる。
どうしよう。
銃だけ取ってこの女は置いてくか、なんて思われてたら。
いやほぼ100%そう思われてるだろうけど。