海の底に眠る祖国
「おい。小日本」
シャオリーベン、と低い言い方が耳に残った。
何だっけ、この語感。
中国語か?と思い振り返る。
少しつり上がった目。
おでこを大きく出した少年が、志乃のことを睨んでいた。
その隣には、ブルネットの綺麗なお姉さんが立っている。
志乃は素早く2人のバッジに目を向ける。
CHNとRUS、中国とロシアだ。
2人は友好的とは言えない表情で志乃に向き合っていた。
「ヤン、私先行くね」
「おぅ」
女の人の方はそう言うと、スッとゴールへ行ってしまった。
一瞬の横顔が妖精のようだった。
志乃はぼんやりとロシア美人を目で追ってから、中国の少年を見た。
そして唖然とした。
少年が、志乃に銃口を向けていたからだ。
まずい。
今じゃルークはもうゴールしてるし、私は武器を持っていない。
体感温度が一気に下がった。