海の底に眠る祖国
ふぅん、とネロがつまらなそうな声を出す。
「聞いたことはあったが、日本人が愛国心が薄いっていうのは本当だったんだな」
「え」
そういうわけではない、と言おうとしたが、その前にネロが踵を返してしまう。
ヒラヒラと手を振り歩き出す。
「まぁ、いいんじゃねえの。愛国心は戦争を生むって言うしな」
否定する間もなくネロは行ってしまう。
違うのだ、と志乃は思った。
愛国心うんぬんとかいう話ではないのだ、これは。
志乃だって日本は好きだ。
桜は綺麗だし、漫画やアニメも好きだし、紅茶よりは緑茶が好きだ。
それなりに愛国心はあると思う。
だけど、今回の戦争は志乃にとっては天災と同じなのだ。
愛国心とかそういう話ではなく、突然身に降りかかった災厄。
大きな力で潰されそうになった時、ひとはどうするか。
なんとか生き延びようとするだろう。
一日先の命の保証もされていない。
明日の自分を考えることで精一杯で、国がどうとか、そんなことに割くあたまの容量はないのだ。
志乃がつらつらとそんな言い訳のようなことを思っていたら、次に鋭い声が飛んでくる。