海の底に眠る祖国
「まぁ、でも俺もヤンの意見には賛成」
「は!?ウォルトを生んだ国があのパクリディズニーを認めるわけ!?」
「そっちじゃない。日本が最下位でゴールすること」
ポイッと煙草を捨てる。
落ちた煙草の火がボロリと崩れる。
志乃はなんとなくその火を靴で踏み消した。
「ポイントも世界の覇権も要らないんだろ。お前らはアジアの檻の中で小さくて精密なものをチマチマ作ってる方が似合ってるよ」
ボソボソとした声でそう言われる。
ヤンがまたチッと舌打ちする。
そして彼はブロンド男の話を最後まで聞かずにゴールへ行ってしまった。
志乃は目の前の男を見つめる。
中性的で存外整った顔をしている。
しかし目つきがよろしくない。
目の下の隈がくっきりと表れ、不健康そうだ。
「やる気がないんだったら、さっさと戦線離脱しなよ。世界のことは、俺らがなんとかするし」
暗い声でそう言って、彼もゴールしてしまった。
ちゃっかり自国の勝利を疑っていないあたり、さすがアメリカ人だなぁと思った。