ガード
恐る恐る入った車内、いわゆるリムジンの中は、それはそれはだだっ広かった。

クッション付きの座席はコの字型であり、座席の下には小さな冷蔵庫らしき物まで付いている。

「家はここからまっすぐ行った突き当たりを曲がった所に有ります。すみませんが宜しくお願いします。」

「かしこまりました。」

男の専属であろう運転手は、人懐っこそうな笑顔でそう言い、車を走らせたのである。

***

最初は緊張して身構えしていた私だが、1分も経たないうちに、心地よい揺れとふかふかのクッションに思わず笑みがこぼれた。

ちゃっかりした所は私の悪いクセである。

「凄い雨ですね」と男が言う。

「そうですね」と私も返しておく。

だがそれ以上会話が進まない。

すると、それまで黙っていた運転手が口を開いた。

「この辺りで宜しいですか?」

幸い雨も止んできた。

なんて安定の悪い天気だ。

だが、ここなら家も見えているし、さほど濡れずに帰れそうである。
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