ガード
***

半ば引きずられるようにして入ったデパートの中は、もはや異次元だった。

生まれてこの方、私は、デパートなんぞには無縁なのだ。

大体、デパートで何か買えるお金もない。

古川さん曰はく、水浦の人間として行くのだから、ちゃんとした服装でなければいけないのだそうだ。

ちゃんとした服装とはなんだ。

スーツにコサージュがボツだというのか。

「・・・。」

「そう機嫌悪くなんなよ。一流の世界とかいうもの、どんなものか、しかとこの目で見てやろうぜ。」

あずさが言うのはもっともだ。

この際、翔が住む世界が何なのか、この目でしっかり見てやろうじゃないか。

****

手始めに私たち4人が入ったところはヴィトンであった。

あのVとLが重なった、少々わけの分からないマークで世界中の人間を虜にするヴィトン、LOUIS VUITTONだ。

「これは、水浦様、いらっしゃいませ。」

「ご無沙汰してます。」

店員の挨拶にもきちんと返すところは翔の長所である。


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