ガード
「俺が運ぶ。」

私の体を浮かせた張本人である翔は、決め台詞のようにそう言い放ったのである。

その頃もう完全に目の覚めていた私は、自分の自制心と一生懸命に戦っていた。

『本当は目が覚めてるって。言わないと。言わなきゃ。』

『このまま運んでもらってしまえ。』

疲れていたせいか、この2つの感情がDNAのらせん構造のように連鎖しているのである。

「じゃあ翔が運べよ。俺はお前が良からぬことをしないための見張り役だ。」

結局のところ自制心をコテンパンにやっつけてしまった私は、されるがまま、なされるがまま、という状態に陥ってしまった。

しかし、そんな私の気持ちを露ほども知らない彼らは早速スタスタと移動を開始してしまったのである。


***


足の長い2人をもってしても、私の住む部屋まではかなり歩く様だ。

「この家、どんだけ広いんだ。もはや城だな。」

「そうか?」

歩いている中で自然に生まれた男たちの会話は次第に思わぬ方向へ発展してしまったのである。


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