不釣合い。
『桜〜着いたよ〜ここのもつ煮込み絶品なんだよ。店は汚いけど』

木村さんがもつ煮込みとかを食べるなんて意外だった。

『俺のおすすめは焼き鳥かな、タレが美味しいよ。店汚いけど』

木村さんがガラガラとドアを開ける。

『大将3人だけど大丈夫?』

『ちょうどさっき奥空いたからどうぞ』

お店の大将が奥の座敷を指差して案内する。

私達は通された席へと座った。

『桜大丈夫?汚いでしょ?』

木村さんが笑いながら言った。

お世辞にも綺麗とは言い難い店だ。

だけど、お客さんは多くほぼ満席状態だ。

『活気があっていいお店ですね』

『桜お世辞がうまい!』

木村さんはそう言うと私の肩をバンバン叩いた。

『明美ちゃん、隆志君いらっしゃい。それと可愛いお客様いらっしゃませ。』

熊みたいな大将がやってきた。

『この子は桜。これからちょこちょこ私と来ると思うからよろしくね。大将、さっき桜がこの店活気があるって褒めてたよ』

『それは今後ともよろしくお願いします。お褒め頂きありがとうございます。今日はゆっくりしていってくださいね。店は汚いけど』

大将が店汚いって言ったらだめでしょ。

でも、アットホームな感じの店で嫌いではなかった。

『桜生ビールでいい?』

『はい!生ビールがいいです』

私は休日は1人で部屋でDVDを見ながらビールを飲むのが好きだ。

晩酌もたまにする。

『明美さん!俺には聞いてくれないんですか?』

長谷川さんが悲しそうに言う。

『あんたは生でしょ?何?最初から熱燗?』

『いえ、生ビールでお願いします』

『もう、最初からそう言いなさい』

木村さんと長谷川さんのやり取りを見るとお姉さんと弟に見えた。

『大将!生3ともつ煮込みと今日のおすすめ2、3品持ってきて』

『大将、俺焼き鳥も盛り合わせで!』

『ありがとうございます!少々お待ちを!』

大将が大きな声を出す。

『桜食べたいものがあったら遠慮なく言うんだよ。私の奢りだから』

『えっそうなんですか?やったー。桜ちゃんいっぱい飲んで食べてね』

長谷川さんが子供のようにはしゃぐ。

『あんたはダーメ!だいたい私の倍は稼いでるでしょ!』

木村さんが笑いながら長谷川さんのおでこをパチンと叩いた。

『あぁデコの骨が折れた。示談金ください。ここの料金でいいです』

『怪我したなら早く帰って寝なさい!』

木村さんが笑いながら長谷川さんを足で追い出そうとする。

『桜ちゃん〜明美さんがいじめる〜慰めて〜』

長谷川さんが私に助けを求めてきた。

『お二人とも仲良しですね』

私は苦笑いしかできなかった。

『お先に生3と小鉢はサービス』

熊大将がビールを持ってきてくれた。

『大将ありがと。忙しそうだから料理ゆっくりでいいよ』

明美さんがビューティスマイルで言う。

『すみませんねぇ。おかげさまで大賑わいです。嬉しい悲鳴です』

大将が照れながら言った。

『大将の焼き鳥うまいもん!そりゃ人気だよ』

『焼き鳥は自信を持ってるからね。いつか隆志君に自信作のレバーを食べてもらうのを待ってるよ』

大将が不敵な笑みを浮かべた。

『レバーは無理!マジで無理!』

長谷川さんは大きな声で言った。

『じゃあごゆっくり』

大将は笑いながら厨房へと帰って行った。

長谷川さんレバー苦手なんだ。

長谷川さんの弱点を一つ見つけた。

『とりあえず乾杯しようか』

明美さんがジョッキを片手に言った。

『月末お疲れ様でした。俺と桜ちゃんの出会いに乾杯』

長谷川さんが真顔で言った。

『か、乾杯』

なんか調子狂うなぁ。

私のイメージしてた長谷川さんと全く違う。

クールな王子様みたいな長谷川さんのイメージがガラガラと音をたてて壊れていった。

もう一つびっくりしたのが、木村さんの飲むペースが速いこと速いこと。

私が一杯飲む間に、三杯目を飲み終わろうとしていた。

『桜〜飲んでる?いっぱい飲まなきゃ損だよ〜』

私は酒は好きだが、そんなに飲める方じゃない。

『の、飲んでます。でも、飲みすぎたら酔っちゃいます』

『桜ちゃん大丈夫だよ。酔っ払ったら俺がちゃんと布団まで送ってあげる』

爽やかな笑顔で長谷川さんが言った。

『あんた、私の後輩に手を出したら殺すから』

木村さんが低いトーンで言った。

『大丈夫です!明美さんにバレないようにします!桜ちゃん内緒にしてね』

満面の笑みで長谷川さんが言った。

『わ、わかりました』

本日二度目の苦笑いだ。

絶対こんなチャラい男は嫌だ。もっと硬派で私を大事にしてくれる人がいい。

『あんたの女好きは病気だよ』

木村さんがあきれて言った。

『明美さん!俺浮気した事無いです。だって俺ベッドの中ではいつでも誰にでも本気ですから』

『女の敵!100回死ね!』

木村さんが長谷川さんをバシバシ叩いた。

『それは冗談ですけど、俺付き合ったら一途ですよ。』

『絶対信じれるわけないじゃん!ねぇ桜』

『えぇ、まぁ、、、』

苦笑いのしすぎで、ほっぺたに若干違和感が。

『桜ちゃんは彼氏いないの??好きなタイプは?』

長谷川さんが逆に質問してきた。

『あっそれ、私も聞きたーい』

木村さんも手羽先にかぶりつきながら便乗してきた。

『え、え、今はいないです』

私は《今は》というフレーズで強がった。

25年間彼氏いないなんて言えないよ。

『そうなんだ〜。こんな可愛いのにもったいない。じゃあどんな人がタイプなの?』

長谷川さんがぐいぐい聞いてくる。

『え、え、優しい人です』

無難な答えでごまかした。

本当は数時間前までのあんただよ!

クールで背が高くてかっこよかったあんただよ!

今はチャラいイケメンまで下がってしまったけど。

『あ、あのー。木村さんは彼氏いるんですか?』

勇気を出して木村さんに聞いてみた。

『あ、あたし!?』

木村さんがびっくりして咳き込んだ。

『ダーリンいるよ』

長谷川さんが代わりに答えた。

『タカ!余計な事言わない!』

木村さんが怒った。

『明美さんいいじゃないっすか?桜ちゃんも聞きたそうだし』

『き、聞きたいです』

私は今日一番の笑顔になった。

『もぉー私の話はいいじゃん』

急に木村さんが女の子になった。

『じゃあ俺から言っちゃおうかなー。明美さんの彼氏は俺の大学のサッカー部の先輩。今も同じクラブチームでサッカーしてるんだ』

『へぇ〜そうなんですか。』

私は目をキラキラさせた。

『俺も全然知らなかったんだけど、社会人になって試合の時にグラウンドの端で先輩となんか見た事あるような女の人がいちゃいちゃしてるわけよ』

『いちゃいちゃしてない!』

木村さんが訂正する。

『その女の人はタオル片手に、好き!大好き!試合頑張ってね!みたいなことを言ってるわけよ』

『タオルは持ってだけど、そんな事は言ってない!あんた遠かったから聞こえるわけない!』

長谷川さんの盛った話を木村さんが訂正していく。

『やっぱお世話になってる先輩の彼女じゃん?挨拶した方がいいよねって思って先輩のところにいったら、、、』

『もういいでしょー!』

お酒なのか照れなのか木村さんの顔が赤くなってるような気がした。

『明美さんが振り返った時の顔今でも忘れませんよ。キャピキャピした女の子の顔から顔面蒼白なって、あー!!!って』

長谷川さんがニタニタ笑う。

『明美さんその時のセリフ覚えてます?』

長谷川さんが木村さんにいたずらっ子のような顔で聞く。

『もう忘れた!』

木村さんはくいっと日本酒を飲んだ。

『そん時明美さんテンパって『あんた、ここでなにしてるの?」って聞いてきたんだよ。でも、俺もテンパって「サッカーです。」って答えちゃった』

長谷川さんがぺろっと舌を出した。

『そのやり取りを聞いてた先輩は大爆笑なわけよ。だって誰が見ても俺サッカーするためにグラウンドいたわけだから』

『へぇ〜木村さんにそんな一面あったんですね』

私は興味津々だ。

『もぉ最悪。桜飲みなさい』

木村さんが私に日本酒を注いできた。

『そんなこんなで3人で飯行く事が多くなって今に至るって話。どぅ?おもしろいでしょ』

長谷川さんは無邪気に笑った。

『おもしろいです。彼氏さんの話もっと聞きたいです』

私は飲むのも食べるのも忘れて夢中になった。
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