お前のこと、誰にも渡さないって決めた。
たぶん、というか絶対母さんのせいだろ。
おせっかいな母さんは、昔っから
『女の子には優しくしなさいよ!』
ってうるっさかったから。
いつのまにか、それが身についてしまっていたようだ。
そんなことをふと思い返していると、いつの間にかバスも利樹も去ってしまっていた。
………まぁ、帰るか。
そう思って歩き始めようとしたときだった。
「光希!」
後ろから呼び止められて、振り向く。
「………藤宮?」
そこにいたのは、藤宮香音。
確か、アイツと同じクラス……8組、だったはずだ。
8組のバスはもうとっくの先に着いていたはずなのに、どうして藤宮がここに……?
そう不思議に思ったのも束の間だった。
「あの……、ちょっと光希にお願いが…」
緊張したように、瞳を瞬かせながら藤宮がどもる。
「なに?」
利樹と喋っていたときより、心なしか優しい声が出た。
こういうところが “女に優しい” と言われる所以なんだろうか。
「えっと、8月24日って用事あったりする?」
…24日?
なんでまた、そんな先の話……
「別に、暇だけど…?」
予定が入っていないことは確かだけど、
藤宮のその質問の意図が見えなくて。
それがどうした、と聞き返そうとしたけれど、僅かに頬を染めた藤宮に遮られた。