お前のこと、誰にも渡さないって決めた。


たぶん、というか絶対母さんのせいだろ。


おせっかいな母さんは、昔っから

『女の子には優しくしなさいよ!』

ってうるっさかったから。



いつのまにか、それが身についてしまっていたようだ。



そんなことをふと思い返していると、いつの間にかバスも利樹も去ってしまっていた。



………まぁ、帰るか。



そう思って歩き始めようとしたときだった。




「光希!」



後ろから呼び止められて、振り向く。



「………藤宮?」




そこにいたのは、藤宮香音。

確か、アイツと同じクラス……8組、だったはずだ。



8組のバスはもうとっくの先に着いていたはずなのに、どうして藤宮がここに……?



そう不思議に思ったのも束の間だった。




「あの……、ちょっと光希にお願いが…」



緊張したように、瞳を瞬かせながら藤宮がどもる。



「なに?」



利樹と喋っていたときより、心なしか優しい声が出た。


こういうところが “女に優しい” と言われる所以なんだろうか。




「えっと、8月24日って用事あったりする?」




…24日?

なんでまた、そんな先の話……




「別に、暇だけど…?」



予定が入っていないことは確かだけど、

藤宮のその質問の意図が見えなくて。



それがどうした、と聞き返そうとしたけれど、僅かに頬を染めた藤宮に遮られた。



< 107 / 387 >

この作品をシェア

pagetop