お前のこと、誰にも渡さないって決めた。


「あのっ!……もし、よければ、なんだけどね…」


「うん?」


「私と、夏祭り、一緒に行ってくれないかなっ?」



あぁ、24日って。

夏祭り………か。



ふと去年までのそれを思い出して、
苦い気分になる。


………思い出すんじゃなかった。



黙り込んだ俺に、不安そうな表情を見せる藤宮。

そんな彼女に、何か答えないと────、と思い、




「いいよ、行こう」




一瞬逡巡したのちに、肯定の返事を返した。




「ほんとっ?!」


その瞬間、ぱあっと嬉しそうに微笑んだ藤宮。



「うん」




だって断る必要もない。

それで藤宮が喜んでくれるんなら─────………なんて、本当は俺がずるいだけ。






「光希って………優しいよね」




関心したように、呆れたように、
どうとも取れるような笑みを浮かべた藤宮に、俺は何も答えられなかった。



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