お前のこと、誰にも渡さないって決めた。
*
*



『みっくん!』


───俺のことをそう呼ぶ、その声が嫌いだ。




そんなことなどお構いなしに家の前の段差に座って俺を見上げる幼なじみに歩み寄った。




『あのね、みっくん、私、わたあめとりんご飴食べたいっ!……あ、でもベビーカステラも外せないな~』




ひまりが発したその言葉にデジャヴを感じて……あぁ、これは去年の夏祭りだ、と腑に落ちる。




『全部自分で食えよ』


『えぇ~?みっくんも手伝ってよ!』


『おまえ、俺が甘いもん食えねぇってわかってて言ってんだろ』



『ふふっ、みっくんてば相変わらず甘いの苦手なんだもんね〜』




わたあめなんて、ただの砂糖だろ。

砂糖菓子は、甘すぎるんだよ。




…そういうおまえこそ、まだ子供みたいに苦いもの食えねぇくせに。

いつのまにか、俺がひまりのピーマンを食べる係になってるし。


中学校のときの給食の光景を思い出す。


泣きそうな顔してピーマンを見つめるあいつを、何度助けてやったことか。





『ね、早く行こっ!花火始まっちゃうよ?』




俺の腕を引いて駆け出したひまり。

そのスピードは、俺が走るより遥かに遅いけれど、いきなり腕を引かれた側としては身体がついていかない。



足がもつれそうになりながら、着いていく。




『あ、ごめんみっくん。速かった?』


『全っ然、速くなかったけど。いきなり走んなよ、危ねぇ』



< 110 / 387 >

この作品をシェア

pagetop