お前のこと、誰にも渡さないって決めた。
夏奈ちゃんの言葉に、
『でもね、ほんとは』────言いかけていた言葉を思い出した。
「あのね、ぜったい誰にも内緒だよ」
翔太くんにも、
香音ちゃんにも、
みっくんにも、
たぶん、きっと、言えないこと。
夏奈ちゃんが頷いたのを確認してから、自分の想いを言葉に乗せた。
「ほんとはね、あのとき」
借り人競走のとき、翔太くんが走ってきてくれたあの瞬間。
「一瞬だけだけど、私ね」
ほんとうに一瞬だけだけど。
「みっくんが走ってきてくれたらよかったのにって、」
私のところへ、人目も憚らず駆けつけてくれたその影が、
みっくんならって。
思ったりしたんだ。
「夏奈ちゃんにだけの、秘密の話だからねっ!」
ふふ、と頬を緩めて笑うと、
夏奈ちゃんがガバッと抱きついてきた。
「え、なに!?」
「ひまり、かーわーいーいーっ!」
そのまま夏奈ちゃんの気が済むまで、
抱きしめられたり撫でられたり、好きなようにされて。
平和だなぁ、なんて場違いなことを思った。