お前のこと、誰にも渡さないって決めた。
だからといって、 “なにかあった?” なんて聞かれたところで、何もないんだから答えようもないし。
「別に……なんもねーけど」
「それならいいけど、おまえ自分のことに鈍そーだし、あんま溜め込まずに吐き出したほうがいいぞ?」
情に厚いというか、おせっかいというか。
利樹にまるで親のようなことを言われ、ふ、と鼻で笑った。
そんな俺に、カチンと来たのかさっきまでの優しさはどこへやら、利樹は睨みつけてきたけれど。
むなしくも始業のチャイムが鳴り、廊下にいた俺たちは慌てて化学講義室に飛び込んだ。
なんとか滑り込みセーフ。
「今日は欠席なしか───、じゃ、授業始めるぞ。この前の続きで、教科書98ページ……」
席に着いて、頬杖をつきながら。
俺は授業を進める教師の声をBGMに、利樹に言われたことを考えていた。
自分のことには鈍い、か……。