お前のこと、誰にも渡さないって決めた。

ひまりの手の感触と、呼ばれた名前にドキリとして、思わず肩がびくりと揺れる。



俺を見上げるひまりの顔を見下ろせば、涙をいっぱいに溜めて潤んだ瞳で必死に俺を見つめてくる。




………やばい。


咄嗟に自制をかけた。




そういう状況じゃないっていうことはわかっているのに、本能的にひまりに触れたくなってしまって。



だって………そんな表情、可愛すぎるから。

そんなの言い訳に過ぎないけれど。



涙目にまで欲情してしまう自分にまた嫌気が差してきて、煩悩を必死で振り払った。




『ひまりのせいじゃないから』



そう、まずはひまりの誤解を解かないと。

鈍感なくせに、なんでも自分を責めようとするから。



『っ?』




『どっちかっていうと、俺の問題。……だからそんな、泣きそうな顔すんな』




そう言って、なんとか理性を保ちながらひまりの涙を拭う。



すると、ひまりはふわりと笑顔になって。




………っ。


もうなんか、俺ほんとうに、そろそろ理性の限界かもしれない。




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