あまりさんののっぴきならない事情
「あ、ファミ……桜田さーん」
とあまりはそっと角から覗いている桜田を見つけ、手を振った。
ひっ、と桜田が身をすくめたのが見える。
本当に控えめな人だなあ、と思っていると、
「桜田?」
とみんなが威嚇するように振り向いていた。
怯えて、桜田はカメが甲羅に引っ込むように顔を引っ込めてしまった。
草野が睨むようにそちらを見ながら、
「そういえば、桜田も秘書だったわね。
たいして仕事出来もしないのに。
おとなしそうだから、ちょうどいいと思われたのかしらね」
と言ってくる。
「いやあ、仕事は出来ると思いますよ。
口も堅そうですし。
それに、とても良い方だと思いますよ」
そう言うと、腰に手をやり、こちらを見た草野が、
「秋月も桜田も良い方、ね」
となにかを含むように言ってきた。
「良い方ですよ?」
と繰り返し、その事実を肯定すると、草野は鼻で笑い、
「じゃあ、この会社に悪い人は居ないわけ?」
と訊いてくる。