あまりさんののっぴきならない事情
 




 日曜日。

 あまりは、なんとなく自宅に帰ってみた。

 ひとりで居るのが嫌だったし、カフェを覗く気分でもなかったからだ。

 すると、父親が庭でゴルフの練習をしているのが門から見えた。

 家に居るのか、珍しいな、と思って眺めていると、こちらに気づいた父親が、歩いて来、門を開けないまま言ってきた。

「お前はマッチ売りの少女か。
 物欲しげに中を見て」

 その手には、意味はないのだろうが、肩に担ぐ感じに振り上げたゴルフクラブが……。

 つい、中に入ったら、撲殺されるかも……と思ってしまった。

 顔が凶悪だからだ。

 いや、ちょっと濃いが男前は男前なのだが。

 なんというか。

 イタリアンマフィアみたいな顔をしている。

 この顔が見合い写真で来たら断るな、と思いながら、おかーさん、何処がよかったんですか、と今更ながらに思っていた。

「入りたいのか、家出娘」
と言われ、

「今、急激に入りたくなくなりました」
と答えると、

「まあ、お母さんが会いたがってるから、入りなさい。
 見合いを断って、一緒に受験戦争を戦った戦友に対して顔を潰してくれた娘よ」
と言い出した。
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