あまりさんののっぴきならない事情
 



 ……いや、私が好きなのは、海里さんの雰囲気とかですね。

 いや、顔も好きですが。

 ……好き。

 好きなんですかね?

と往生際悪く思いながら、あまりはカフェに戻った。

「あまりちゃん、外ー」
と言われて、はいはい、とテラス席に行くと、通りの方を見て座っているトレンチコートの男が居た。

 その後ろ姿を見たとき、どきりとしていた。

 似てる、と思ったからだ。

 水の入ったグラスとメニューを置こうとしたとき、男が振り返る。

「ごちゅ……」

 ご注文がお決まりになりましたら、と言おうとした言葉が止まっていた。

「ネズミか」
と男は笑う。

 困ったことに、その笑い方まで似ている。

「南条あまり。
 なんで固まってるわけ?」
と彼は自分の名を呼び、訊いてきた。

 ……何故でしょう。

 まだ会社にいらっしゃるはずなのに、此処にも海里さんがいらっしゃいます。
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