あまりさんののっぴきならない事情
「やっぱり、よく考えたら、腹立ってきた。
 お前、一度は遥真をいいと思ったわけだよな」

 い、いや、それはちょっと……とごにょごにょと言っていると、海里は少し後ろに下がり、両手を広げて言ってきた。

「来い、あまりっ」
と犬を呼ぶように呼ぶ。

「よく考えたら、お前の方からキスされたことはないっ。
 罰として、自分から、しに来いっ」

「むっ、無理ですーっ」

「無理じゃないっ。
 さあ、来い、あまりっ」

 両手を広げて、大丈夫だ、と自分を呼ぶ海里に、なんだかスイミングの先生みたいだな、と思う。

 あまりは唾を飲み込む。

 さ、される方でさえ、あんなにクラクラしてるのに、どうやって自分からしろと言うのですかっ。

 だが、海里は、
「大丈夫だ。
 なにも考えずに突っ込んで来いっ」
と言ってくる。

 これはお前に対する罰だという海里の言葉が頭に蘇る。

 そうだ。
 たまには、私の方からも海里さんに自分の想いを示さなければっ。

 思えば、出会ってからずっと、与えられてばっかりだから――。

「……はいっ」
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