あまりさんののっぴきならない事情
 あまりは覚悟を決めた。

 そのまま、廊下の端まで勢いよく下がっていった。

 何故、下がるっ!? という顔を目をつぶる寸前、海里がした気がした。

 あまりは廊下の端から目を閉じ、一気に海里に突っ込んでいく。

 ぐっ、と低い声がして、海里が動かなくなった。

 そのまま、勢いに押されたように倒れ込む。

「お、お前……肘が入ってる、肘が」

 身構えて走り出したので、肘が前に出ていたようだ。

 突き倒された海里が少し丸まるようにして、咳き込んでいる。

 いや、恥ずかしいから勢いをつけてみたのだが。

「重い……あまり、上から退けっ」

 だが、あまりは咳の止まった海里の頬に触れ、そっと唇を重ねた。

 一瞬して、逃げようと思ったのだが、そのまま後ろ頭を押さえつけられる。

 しばらくして、
「おっと……」
と海里が言った。

「今度はドア、閉まってるだろうな」
とひょいと一度、あまりを自分の上から退けると、海里は確認に行った。

「いや、待てよ。
 此処は壁が薄いそうだから、何処か行こうか」
と再び、あまりを抱き上げ、笑いかけてきた。
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