あまりさんののっぴきならない事情
『今日は疲れたから、もう寝る』
と勝手に膝の上に横になり、目を閉じる海里の整った顔を見ながら。

 目を閉じてると余計に格好よく見えるなーと思って、ぼんやり見てるとか言うと殴られそうだ、と思っていた。

 だが、なにも言ってはいないのに、やっぱり小突かれた。

「廊下で堂々、のろけてんじゃないわよ」

 あーあ、私も旅行、行きたかったわ、という草野に、
「いや、くればいいじゃないですか。
 その彼氏さんとやらと」
とあまりは言う。

「いやあね、まだ連れて行けるような間柄じゃないのよ」
と草野はちょっと照れたように言ってきた。

 最初は旅行に来ると言っていた草野だったが、その日は、カフェでナンパした相手と初デートすることになったのだと言う。

「成田さんの目の前でどうかと思ったんだけど。

 でも、成田さんがそこに居るのに、何故か素敵に見えたのよ、そのぼんやりした人が」
と草野は言ってくる。

 あの……経理の松田さんはどうなったんてすか?
と思わなくもないが、なんだか幸せそうだから、まあ、いいかと思ってしまった。

 ごめんなさい、松田さん。
 今度いい人、紹介します、と思う。
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